ポーターとバーニー

 ポーターの戦略論の本質は、(1)企業を取り巻く外部環境を5つの競争要因から分析し、そして(2)3つの基本的戦略によって、自社独自のポジショニングを取ることにあった。それに対して、バーニーの戦略論の本質は、「競争優位の源泉」を企業内部に存在する経営資源に求めている点にある。彼は、内部環境に着目し、持続的競争優位を左右する要因は、所属する業界の特徴にあるのではなく、その企業が業界に提供するケイパビリティ(能力)にあり、これが収益性を決めるという理論である。

 ポーターによれば、魅力の乏しい業界では収益性を獲得することは難しいため、このような業界を選択すべきではないというのに対して、バーニーは競争が激しく魅力の乏しい業界においても、高い収益性を実現している企業があると主張している。ウォルマート、アマゾン、デルなどがその事例である。流通業界という極めて魅力に欠ける業界に位置しながらも、ウォルマート持続的競争優位を維持しアメリカだけにとどまらずヨーロッパにまで進出している。

 バーニーは上記のように競争優位を獲得するには稀少かつ模倣にコストのかかるケイパビリティを装備し、それを通じて顧客ニーズに応える戦略を採ることであると述べている。具体的には「VRIO」というフレームワークを用いることで、その企業のケイパビリティが競争優位を獲得できるかどうかということをはかっている。


バーニーが主張する「VRIOフレームワーク」とは、「経済価値(Value)はどの程度か」「希少性(Rarity)はどの程度か」「模倣困難性(Imitability)はどの程度か」「組織力(Organization)はどの程度か」の視点から「ケイパビリティ(能力)」を評価する尺度である。

 経済価値に関する問いとは、その企業の保有する経営資源やケイパビリティは、その企業が外部環境における脅威や機会に適応することを可能にするか。
 希少性に関する問いとは、その経営資源は、ごく少数の競合企業によってコントロールされているために入手が困難なのか、あるいは入手が容易なのか。
 模倣困難性に関する問いとは、必要な経営資源保有していない企業が新規に参入しようとする場合、模倣コストはどの程度か。そして組織力に関する問いは、企業が保有する、価値があり希少で模倣コストの大きい経営資源を活用するために、組織的な方針や手続きがどの程度整っているかである。これらを指標とし、その指標が高いほど持続的競争優位を高められるとしている。

 バーニーの事例では、トヨタ自動車のケイパビリティはサプライヤーとの緊密性、そしてソニー本田技研工業のケイパビリティは顧客との緊密な関係によって生まれた顧客ロイヤリティーであるとしている。多くの欧米企業がトヨタ自動車サプライヤーとの関係性を模倣しようとしても失敗したように、これらのケイパビリティは模倣困難性が高く、持続的競争優位をもたらす決定的な要因となっていると主張している。

 またこれらのケイパビリティを作りだす要素として、4つ指摘されている。まず一つ目が自社独自の経験。そして二つ目が、サプライヤーとの緊密な関係性。三つ目が、顧客との密接な関係性。そして四つ目が従業員との密接な関係性である。これらの4つの要素によって自社固有のケイパビリティが形成されるとしている。

 RBVは、端的に言えば、持続的な競争優位を獲得するには業界の魅力度は関係なく、自社独自のケイパビリティによってこそ持続的競争優位を獲得できるという理論である。
 これに対してRBVとポジショニング理論の関係性については以下のような指摘がなされている。企業の競争戦略を策定するにあたって、内部環境とともに、外部環境も重要である。また、ポーターの論点は、企業が独自のケイパビリティを有していることを前提にしているように、バーニーもまた模倣困難性を生み出すためには、業界内でのポジショニングが重要であることを前提にしている。これらの点から、ポジショニング理論とRBVは相互補完的であるともいえる