BASiCS

経営戦略の理論は、孫子に始まり、マイケル・ポーター氏の競争の戦略という古典に始まり、バーニー氏のRBV、コトラー氏のマーケティング戦略論など、ものすごく多く、しかも複雑なように見えます。

弊社代表の佐藤義典も一時期その多様さ・複雑さに悩んだときがあると言います。しかし、結局は、色々調べて分類してみると、大きく5つにまとめることができるのです。

このような複雑な議論は、一度単純化して整理した方が、本質に近づけます。ストラテジー&タクティクスは、数々の経営戦略論を画期的に整理し、5つにまとめ、パッケージ化された使いやすいツールにしたのです。

では、5つの経営戦略論を順にご紹介していきましょう。


1)戦場型

最初に来るのは、やはりマイケル・ポーター氏のポジショニング戦略論ですね。彼の主張は、「ある企業の競争戦略の目標は、業界の競争要因からうまく身を守り、自社に有利なようにその要因を動かせる位置を業界内に見つけることにある。」ということです(「競争の戦略」より引用)。業界内のポジションをうまく見つけ、そこにうまく自社を導く、いわゆる「ポジショニング論」です(ここでいうポジショニングは、マーケティングで言うところのポジショニング(顧客の頭の中での位置づけ)とは違い、業界内での自社のポジションです)。

ざっくり言えば、「良い競争上の位置にいる会社は儲かる」、さらに単純化すると、「儲かる業種にいれば儲かる」ということですね。「戦わずして勝つ」という孫子の兵法とある意味近いです。

しかし、当然のことだが、同じような業界ポジションにいても、儲かる会社もあれば、そうではない会社もあります。身近な例では、在京プロ野球球団でも、巨人とヤクルトの平均入場者数は2倍以上違います。同じプロ野球球団なのに……

2005年はヤクルト4位、巨人5位だったので、強さに比例しているわけではなさそうです。だから、業界内におけるポジションを決めること「だけ」が戦略を決めることでは無い、という至極もっともな考えがあります。


2)独自資源型

自社の業界内ポジションだけで競争優位が決まるわけではなく、各社固有の資産が競争優位の源泉だという戦略論もあります。それを「独自資産型」の戦略論と名付けることにしましょう。その一つが、ポジショニング論に対する、ケイパビリティ(会社の能力)論だ。リソース・ベースド・ビュー(RBV)論を展開する、バーニー教授らの主張ですね。

持続的競争優位を左右する要因は、所属する業界の特質ではなく、その企業が業界に提供するケイパビリティ(能力)である。稀少かつ模倣にコストのかかるケイパビリティは、他のタイプの資源よりも、持続的競争優位をもたらす要因となる可能性が高い。企業戦略の一貫としてこの種のケイパビリティの開発を目指し、そのための組織が適切に編成されている企業は、持続的競争優位を達成できる。」(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー May 2001 ジェイ B・バーニー P.80)

よく言われるコアコンピタンスなども、この独自資産型の話ですね。

これも、ざっくりまとめると、「能力が高い会社は儲かる」という当たり前のことです。

3)差別化型

業界内での位置や、固有の能力も重要にしても、そこから産み出された「差別化」こそが戦略の本質である、という主張もあります。同じことを行い、同じものを作っていたら、顧客は安きに流れます。その結果、価格競争になることは非常に多いのです。記憶に新しいのが、2001年5月のマイライン解禁に向けての値下げ競争です。

だから、「新しい軸を加えて戦場を作り直すべきだ」と主張するのが、評判となった「ブルー・オーシャン戦略」です。これは本質的には、「新しい価値の軸を追加して、その軸で差別化しよう」という主張です。

ざっくりまとめると、競合より優れた価値を提供すれば儲かる、ということです。

4)顧客型

マーケティング戦略の典型が、顧客型の戦略論です。マーケティング界の超著名な理論的指導者、セオドア・レビット氏とフィリップ・コトラー氏によれば、「ビジネスを突き詰めれば、たった二つの要素、つまり「金」と「顧客」をめぐるものです。立ち上げるために金が必要で、続けるために顧客が必要で、既存顧客を維持し、新規顧客を獲得するためにまた金が必要となる。」(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー November 2001 セオドア・レビット P.38)

お客様がマーケティングの戦略の中心に据えられるべきだ、という考えは解説するまでもありませんね。

ざっくりまとめると、「顧客視点で考えれば儲かる」ということです。

5)メッセージ型

メッセージ主導型の戦略論は、マーケティングとは、製品の差別化、独自資産を競う場ではなく、「顧客の頭の中での戦いだ」という主張です。

マーケティングとは、ある種の心理戦争である。すなわち、知覚をめぐる戦いであって、商品やサービスをめぐる戦いではないのだ。」(マーケティング22の法則 東急エージェンシー アル・ライズ/ジャック・トラウト 共著 P.135)

「伝わらないことには意味がない」という主張には、一面の真理があります。

ざっくりまとめると、「良いメッセージを送出すれば儲かる」ということです。

戦略BASiCS

こうしてみると、経営戦略論と大上段に言っても、

1)儲かる戦場で戦えば儲かる
2)独自資産を持てば儲かる
3)差別化できれば儲かる
4)顧客志向で考えれば儲かる
5)良いメッセージを送れば儲かる

の5つしか無いんですね。複雑な話ではありません。MBAで習うことって、実はこれを複雑に、精緻にしたことなのですが、本質はこんなことです。

では、どれが正しいのでしょうか? 全て当たり前のことであり、全て正しいです。何事も本質はシンプルです。全て当たり前。問題は、この間の整合性をとりながら、実行していくことなんです。それは、簡単ではありません。単純な5つのことを整合性をとりながら、社員全員で実行していくのは、非常に難しいことです。

そこで、この5つをまとめて考える、戦略BASiCS(ベーシックス)というフレームワークを開発しました。

BASiCSは、

Battlefield (戦場)
Asset (独自資源)
Strength (強み・差別化)
Customer (顧客)
Selling Message (売り文句)

の頭文字をとったものです。戦略の基本、という意味もこめて、BASiCSです。i は語呂合わせです。ストラテジー&タクティクスの戦略コンサルティングの中核をなすのが、このツールです。