日本の対外純資産

財務省が28日発表した平成24年末の対外資産負債残高によると、日本の企業や政府、個人投資家が海外に持つ資産から負債を差し引いた対外純資産は前年末比11・6%増の296兆3150億円で、21年末の268兆2460億円を上回り、過去最大となった。増加は2年連続。

 麻生太郎財務相が同日の閣議に報告した。年前半は円高の進行で企業が海外でM&A(企業の合併・買収)を進めるなど直接投資を増やした一方で、年末にかけて円安が進み、取得した海外資産の円換算の評価額が上がったことが影響した。

 国際通貨基金IMF)などの統計では、主要国の24年末の対外純資産は2位の中国は150兆2875億円、3位のドイツが121兆8960億円。このため、日本は平成3年以降22年連続で「世界一の債権国」の座を維持した。

 対外資産残高は13・8%増の661兆9020億円と4年連続で増加。

 海外から日本への投資などが含まれる対外負債残高も15・7%増の365兆5880億円で3年連続の増加だった。

対外純資産はこれまで世界最大の債権国である日本を象徴する数字といわれてきた。だが最近では別の意味で、対外資産残高が注目されてはじめている。

 バブル崩壊以後、15年以上のデフレを経て、日本は輸出を中心とした途上国型の製造業モデルから、工場の海外移転現地生産を中心とする投資型の製造業モデルに転換しつつある。
 これまで重要だったのは、輸出による儲けを示す貿易収支であったが、日本の貿易収支はすでに赤字に転落している。一方、今後重要になってくるのは、海外の工場や現地法人から還元されてくる配当や利子といった投資収益である。
 この投資収益を維持することができれば、工場が海外に移転しても日本は製造業で利益を上げ続けることができる。この投資収益の基準となる指標が対外資産の残高なのである。

 日本の対外資産は世界トップだが、その資産内容は米国債に大きく偏ってきた。日本の対外資産のうち3分の1程度が外国債でこの多くが米国債と考えられる。日本が2012年に海外から得た全体の投資収益(所得収支)は14.3兆円である。今回発表された2012年末の残高が662兆円であることを考えると、投資利回りは2.1%ということになる。国債を中心とした運用では、全体の利回りはこの程度になってしまう。

 だが今後、日本が投資によって経常収支を確保しようと思った場合には、この利回りをもう少し上げる必要がある。そのためには、投資収益率の高い直接投資の割合を増加させることや米国債以外の運用先を探すことが重要となってくる。
 海外直接投資の残高は約89兆円だが、これは対外資産全体の13.5%に過ぎない。海外生産の強化やM&Aによる企業買収を活発化させるとともに、利回りの高い債券の比率を上げることによって、全体の投資収益は大きく向上するはずだ。
 もし全体の投資利回りを1%向上させることができれば、年間6.7兆円もの収入になる。十分に検討する価値はあるだろう。