変革と改善

革新は改善とは異なります。改善は現状の組織構造、業務手順をいかに効率的に無駄なく運営していくかが主題となりますが、革新の場合は既存の事業遂行方法、あるいは既存事業そのものを根本から見直し、企業を新たな姿にすることが求められます。描くべきなのは基本戦略に基づいた将来の理想像であり、実施するのはそれに向けての計画的な革新活動です。現状の組織はこれまでの企業の歴史の中で自然発生的に組み上げられてきたものです。このような組織は今までの事業推進には適応していても、新たな理想像には適していないケースがほとんどです。 革新を実現するためにはどのような経営機能の構成が最適かを考える必要があります。経営機能とは、営業部・製造部というような部門のことではありません。一連の企業活動を構成している、企業が保有している「事業上の機能・能力」であると考えてくだい。
3年後(あるいは5年後)の企業革新の達成のためには、以下の10種類の機能について、どれぐらいの能力や水準を保持する必要があるかを検討したうえで、現状とのギャップを把握していきます。なお、全ての機能を自社で持つ必要はありません。業務提携やアウトソーシングなどによって外部から調達することも検討してください。

【メイン機能】
研究開発、商品開発、仕入・調達、生産、マーケティング、物流
【管理機能】
人事政策、財務会計、情報システム、全体マネジメント

例えば、自社の革新の基本方針が「市場開拓」である場合、3年後にはどのような技術(研究開発機能)に基づくどのような商品(商品開発)を、どれぐらいの目標売上高と顧客数で達成するか(仕入・調達、生産、マーケティング、物流)、そしてそのような目標を達成するためには成果主義のような新たな人事制度の導入を検討し(人事政策)、顧客情報を有効活用(情報システム)しながら、いかに借入金を減らしながら(財務会計)実施していくか。進捗状況を把握するにはどのような連絡−報告体制で行なっていくか(全体マネジメント)という具合に考えて行きます。

さて、革新目標を達成するために、将来獲得しているべき機能水準が判明したならば、それが現状の経営資源、特に設備と人員で可能かどうかを考えます。足りない資源は何か、それはいつまでに手に入れておかなければならないかを明確化し、その実現可能性を冷静に検討していきましょう。革新は理想像を実現することだとは言いましたが、実現できないような夢物語ではこれもまた意味がありません。

必要な機能の水準と必要とされる経営資源を検討していくと、現状での組織構造では対応が難しいなどの問題点が浮かび上がってきます。例えば現状では地域ごとの支社制を採っているが、今後は事業分野ごとの事業部制にする必要がありそうだとか、職務階層が多くなっているが、機動的に意思決定するためには階層を減らしてフラット(水平)なものにするべきだなど、革新の戦略に基づいたイメージが出来上がってきます。

重要なのは、必ず達成すべき目標とそれに必要な機能を基に、組織のあり方を考えることです。権限を委譲したフラットな組織がこれからは適している、中央集権型の組織は時代遅れでだめだというような話がよく聞かれます。まるで組織を組み替えれば明日から成功するような論調です。本当にそうでしょうか。

企業はそれぞれ目指すもの(つまり戦略)が異なり、必要とされる機能や指示体系も異なります。組織形態が戦略を成功させるのではありません。戦略に適した組織形態があるだけです。例えば、カルロス・ゴーンは日産をファンクショナル組織(部門を横断した、プロジェクト単位での機能組織)で改革したのではありません。日産を改革する戦略に適した組織形態としてファンクショナル組織を選択したに過ぎません。原因と結果を取り違えないように。必ず戦略目標とそれを達成するための機能を中心に考えてください。

◆組織運営のルール作りの視点

新たな組織の姿が見えてきたならば、その組織を運営するためのルールも考えなければなりません。どの経営機能に関してはどのような部門に対応させるのか、それぞれの部門のそれぞれの職務階層が持つべき職務上の責任はどこまでにするか、権限はどこまで与えるかなどを決定していきます。さらに、企業の革新という新しい試みを行なうならば、その進捗状況や発生している問題などは部門を越えて共有していく必要があります。このような共通認識を持つための場として、これまで以上に会議の持つ意義が重要となってきます。経営会議、部門長会議、各部門の会議や課単位での会議など、いくつもの会議が皆さんの企業でも行なわれているかと思います。これらの会議を有効に機能させるために、それぞれの会議の目的と頻度、決定すべき事項などを明確化しておきましょう。

組織運営のルール作りにおいて見落としがちなのが、組織風土の側面です。職務権限や会議体系は経営側で検討していくことができます。しかし、実際にこれを運営するのは従業員であることを忘れてはいけません。職務上の指示命令は会社の公式のルールに基づいて経営側から発信することができます。しかし、実際に職務を遂行する際に従業員が従うのは、企業文化や組織風土などに集大成される「職場なりの業務の進め方」です。

革新の方向性とこの企業風土が合致していれば問題はありませんが、そうでない場合には計画的に組織風土の革新も図っていかなければ革新したはずの組織が停滞を引き起こしてしまいます。明らかに革新の方向性と異なっていると指摘できるものに関しては是々非々で対処していきましょう。一方、なんとなく覇気がないというような職場の風土的なものは、経営者自らが、革新の方向性とそれによって実現される将来像を従業員に対して発信し続けながら、一方では思い切った登用や報奨(場合によっては降格や減俸)などにより「目に見える形」で意図的に変化を意識付け、組織の活性化を図る必要があるでしょう。