「成功」と「上昇」を求める層が最も少ない日本

仕事柄公私にわたり、いわゆる外資系企業のブランドマネージャーの人達との交流が多いが、ここのところ彼らの顔色が冴えない。ブランドマネージャーの仕事は、言ってみれば、本社やアジア地区のトップとかけあって予算を確保し、日本国内でのマーケティング施策をどれだけ「独自」に実施するかにある。もともとリージョンあたりとの駆け引きは今に始まった話しではないのだが、ここのところどうも旗色が悪い。決定権がどんどんシンガポールなどでアジア地区を統括しているオフィスに移り、予算も施策内容もいちいちお伺いをたてないと決まらなくなってきている。単なるパワーやバジェットの綱引きと見れば前からあった話の延長なのだが、そもそも日本という市場の重要性が外資系企業において薄れてきていることがこれまでとの大きな違いとなっている。もちろん業種にもよるが、「拡大」や「成長」の施策は中国や他のアジアのマーケットでやるから、日本はまあブランドを大事に守って、そこそこうまくやっていってね、ということらしい。

確かに経済成長率などを中国あたりと比べられると致し方ないという気もするが、日本人の消費離れとか、「モノを買わなくなった」傾向とも無関係ではないだろう。個々の企業は取り扱い製品に対する購入意向であるとか、ニーズの変化をトラッキングしているが、ここではもう少し俯瞰して「価値観」というところまで視点を上げて、実際に日本人の消費傾向が大きく変わったのかどうか、他の国々と比べてどうか、ということを見てみたい。

この連載では、当社が属しているヤング&ルビカム社が、1993年以降日本を含む世界51カ国で行っている世界最大級のブランド調査、Brand Asset Valuator (BAV)のデータをもとに、変化する消費者をその価値観にスポットを当てて見てみると同時に、それに対処するマーケティング活動を、「ブランディング」という観点から考えてみる。


BAV調査は、各国1000以上の様々なブランドの成長力などを調査しているが、それと同時に各国同じ調査票で「価値観」の調査も行っている。そこでは、世界の消費者を7つの価値観セグメントに分けている。これは、ヤング&ルビカム社が開発した4Cs(Cross Cultural Consumer Characterization)という消費者価値観分析モデルで、消費者を国籍や社会属性に関係なく価値観により7つのセグメントに分類するというグローバルな消費者分析モデルである。

25カ国中「あきらめ派」比率が最高、「上昇志向派」比率は最低

最新年度で比較できる25カ国中、7つのセグメントの中の「あきらめ派」の水準は、日本(2010年調査実施)が一番高いという結果になった。この「あきらめ派」は既存の価値に執着し、時代の変化に適応できず、社会参加を「あきらめ」ている層と定義され、過去にこだわり、変化に抵抗をもち、ブランド選択も、「安全」で「親しみ」があり「経済的」なものを選ぶ傾向にあるとされる。同様に、疎外感やフラストレーションなどの社会における苦悩から逃避しようとする層と定義される「苦闘派」も25カ国中3位というやはり高い水準にあることがわかる。

一方、「上昇志向派」は逆に25カ国中最低のレベルになっている。この層は、社会の中で自分が周りにどう見られているかを重視し、ステイタスを志向する層と定義され、「羨望されたい」「見られたい」ことがモチベーションとなり、「華やか」で「トレンディ」なことが選択基準となっている。まさに、これまでの消費を牽引してきた層であり、マーケティング活動、とりわけ広告などのコミュニケーション活動は大なり小なりこの層をターゲットにしてきた。「いずれはクラウンに乗りたい」「そのうちロイヤルを飲むぞ」など商品ラインアップもこの層を意識して作られてきた。この層が今や見る影もなくなってきていることは、このデータベースからも明らかになったと言える。

やはり同様に、目標意識と達成への自信をもち、大衆からの分離がモチベーションであるとされる「成功者」も25カ国中最低のレベルとなっている。