空気

人を動かすチカラを持つ「空気」という存在。今回の大震災や太平洋戦争時という有事には、瞬く間にこうした空気が自然に醸成され、結果として大衆を動かす。ではこの「空気」を意図的に、また生産的な目的を持って創出することは可能なのか。これこそ私自身が戦略PRプランナーとして10年以上取り組んできた「空気づくり」というテーマであり、自著の「戦略PR 空気をつくる。世論で売る。」で説いたことだ。「空気」は本質的にコントロールできるものではなく、お金をたくさん積めば生まれるものでもない。しかしその発生にはある一定のメカニズムや法則と呼べるものがあり、それらを体系化させたものが現在「戦略PR」と呼ばれる方法論だ。戦略PRとは、簡単に言えば「消費者が関心を持つような『空気』を世の中につくって、それをうまく商品の売りにつなげる」という考え方。「ピロリ菌が胃に悪さをしている」という空気をつくって、「ピロリ菌を退治できるヨーグルト」の売りにつなげたり、「赤ちゃんの睡眠が社会問題だ」という空気をつくって、「赤ちゃんの睡眠環境を考えたおむつ」の売りにつなげたりする活動だ。

 空気をつくるには、3つの必須要素がある。それが、「おおやけ」「ばったり」「おすみつき」と呼んでいるものだ。「おおやけ」は、広げるテーマに必ず公共性や社会性を付加すること。これによってマスコミでの波及をはかる。「ばったり」は、「情報との偶然の出会い」を演出すること。ソーシャルメディアでのクチコミはこれにあたる。「おすみつき」は、情報に第三者的な信頼性を与えること。インフルエンサー(影響者)と呼ばれる有識者やカリスマの巻き込みだ。この3つを軸にして情報戦略を設計し、波及させるわけだ。

 ここ数年の大きな変化――企業の情報発信に懐疑的な消費者の出現、メディアの多様化、情報洪水の発生――を背景に、急速に広告業界で着目されるようになったのがこの「空気づくり」の発想であり、戦略PRという方法論だ。しかしこの震災というひとつの転機を経て、企業がどう「空気」を扱っていくかという課題は、これまでになく重要になると私は感じている。皮肉なことに、消費者を「過剰な自粛」へと走らせた背景に「空気」の存在があったことは、現代的な消費者の行動原理と「空気」の相関性を実証したとも言えるのではないだろうか。