分散ワークスタイル

会社に出勤できないような有事に直面するたび、「テレワーク」と呼ばれる在宅勤務の必要性が説かれてきた。2002年から2003年にかけて起きたSARS騒動しかり、2009年の新型インフルエンザしかりである。そして今年、大震災による交通機関の麻痺への備えや節電対策が不可欠となる中、「BCP(事業継続計画)」の観点からも、仕事のスタイルに対する再考が求められている。
今回が過去の事例と違うのは、「出社できない場合にだけ利用する制度」といった消極的かつ対症療法的な発想ではなく、リーダーが先頭に立ってワークスタイルの変革に取り組まなければいけないことだ。意思決定者が会社に出て来られなくても、粛々と仕事を進められる体制が求められている。まさに、“分散ワークスタイル革命”を掲げる時期に来ているといえるだろう。

突然、分散ワークスタイルを導入しろと言っても、仕事のやり方を変えることに難色を示されるかもしれない。そもそも在宅勤務でできる仕事なんて限られている……という印象を持っている方も多いだろう。しかし、この点にも吉越氏は「今は、分散ワークスタイルに取り組むためのツールや環境が十分にそろっている。あとはリーダーの考え方次第。会社全体として、導入することを決断できるかどうかだ」と語る。
確かに、ここ数年だけを見ても、ITインフラはハードとソフトの両面で大きく進化した。大都市部には高速のデータ通信網が張り巡らされ、携帯電話はスマートフォンへと移行しつつあり、端末に依存することなくデータやアプリケーションを利用できるクラウド型のオンラインサービスも増えている。
企業向けだけでも、書類を複数人で作成する環境が整い、決済を受ける業務までペーパーレスでできるようになっている。またスケジュールなどを管理するグループウエア、コミュニケーションを取るためのチャットや社内SNS。どこからでも会社のパソコンの中身がのぞける仮想化のシステムに、細かなところでは勤務記録を管理するシステムなど、分散ワークスタイルを実現するためのサービスがそろっている。それらが、セキュリティ面を心配することなく利用できるようになってきたのだ。
「自宅でやれるような仕事はない……」と思っていた方でも、最新のサービスを見渡すと、いまだに残るアナログ的な業務をデジタル化できる可能性に気づかされるはずだ。

BCPとは企業がビジネスコンティニュイティに取り組むうえで基本となる計画のこと。災害や事故などの予期せぬ出来事の発生により、限られた経営資源で最低限の事業活動を継続、ないし目標復旧時間以内に再開できるようにするために、事前に策定される行動計画である。

 BCPの策定では、まずビジネスインパクト分析を行って自社の業務プロセスが抱えるリスクと影響(損害)を洗い出す。そのうえで優先的に復旧すべき業務とそれに必要な設備やシステムを明らかにし、目標復旧時間の設定や復旧手順を計画していく。より包括的な事業継続管理(BCM)においては、BCPは定期的に見直されるものとされる。

 内閣府の事業継続ガイドラインにおいては、事業継続計画は「緊急時の経営や意思決定、管理などのマネジメント手法の1つに位置付けられ、指揮命令系統の維持、情報の発信・共有、災害時の経営判断の重要性など、危機管理や緊急時対応の要素を含んでいる」とされる。

 なお、似た言葉にコンティンジェンシープランがあるが、これは緊急事態が発生した直後の対応や手続きに焦点が置かれているのに対して、BCPは平時の事前対策を含めて、事業の継続・復旧に力点が置かれている。