プロフェッショナル

オレの理想の野球って何か。みんなわかっていないよ。1点を守るとか、足を使うとかではない。競争を勝ち抜いた奴らで戦うことだ。お前ら(チーム内で)白黒つけたんだから、今度は相手と白黒つけてこいって。そうすれば、監督は何もしなくていいんだ。

落合が8年間、選手たちに求めたもの。それはただひとつ「プロフェッショナル」だった。そのために、選手との間に一切の「情」を排除した。個人的に選手と食事に出かけたことはない。頑張れと言ったことも、期待していると言ったこともない。その代わり、技術を認めれば、グラウンドに送り出した。

守りの野球はあくまで勝つための方法論だった。激しい競争を勝ち抜き、指揮官の助けすら必要としないプロフェッショナルを9人、送り出すこと。それこそが、落合の理想の野球だった。だから“9・22”の退任発表以後、「監督のために」などと期待する気持ちはさらさらなかった。それより、選手たちが異常な状況の中でも、自分のために戦う姿が落合にはうれしかった。谷繁に見せた異例の行動は、指揮官が初めて選手たちを認めた証だった。成熟したプロ集団の象徴として、40歳にして頭をなでられた谷繁も誇らしげだった。

ふたつの戦いを制した夜、ともに落合は6度、宙に舞った。印象的だったのは手を差し伸べる選手たちの目にも、歓喜の空を見上げる落合の目にも熱いものが光っていたことだ。 8年間、両者の間に「情」など存在しなかったはずだった。あったのは、チーム内競争に勝つための、そして相手球団に勝つための戦いのみ。だが、そんな両者の間にいつしか熱いものが生まれていた。それは「絆」ではないだろうか。好き、嫌いの感情を超えた男同士の絆。飽くなき戦いによってのみ生まれるプロ同士の絆だったのはないだろうか。


「今年はオレが情を捨てたんだ。こっちはどうしてもシーズンで頑張った選手をシリーズでも使いたくなる。でも、それじゃだめなんだ。監督というのは選手、スタッフ、その家族、みんなを幸せにしないといけない。ひとりの選手にこだわっていてはいけない」落合は真の情人である。