連携や協調・・・・・ジョブズ

ジョブズ氏が無能さや弱さに対する寛容さをほぼ欠いていたというのは事実である。しかし、評論家たちが弱い者いじめだと捉えているジョブズ氏の戦術の多くは実際には意図的なもので、本当に自分を知っており、自信がある人々を洗い出し、ペテン師たちと区別するように考案されたものである。ジョブズ氏が自分に反発してくる人々を心から評価し、敬意を払っていたということについてはみんなの見解が一致しているようだ。

ジョブズ氏には確かに、人の心を見通し、素質のある人とない人を選別する能力があった。ピクサーでのキャットムル氏とラセター氏に加え、ジョブズ氏はアップルでも優秀な人材で自分の周りを固めていた。最高執行責任者(COO)にはかなりのやり手で強い指導力を持つティム・クック氏、世界的なデザイナーのジョナサン・アイブ氏、製品作りで最も成功した人物の1人でシリコンバレーでもリーダー的存在のスコット・フォーストール氏、アップルストアの起ち上げと運営の指揮を執らせるためにジョブズ氏自らが引き抜いてきたロン・ジョンソン氏(現在はJ・C・ペニーのCEO)、アップルの取締役でやる気を引き出すのがうまい素晴らしい才能育成コーチ、ビル・キャンベル氏などである。

他にもまだまだいるが、興味深いことにアップルで、ジョブズ氏の下で成功していた幹部数人のそれ以降の活躍はあまり芳しくない。とはいえ、彼ら自身もみな力強い性格と個々に素晴らしい才能を持っている。

ジョブズ氏は自らの事業の各分野において一流中の一流を探し求めた。アップルとピクサーで同氏を支えたのは非常に高い才能を持つ個人が集まったドリームチームだったのだ。そして、ジョブズ氏は並外れた才能を持つコーチだった。スティーブ・ジョブ氏を優れたリーダー、革新者、人物にしているもの、非常に貴重な存在にしているものは、これほど幅広い性格のリーダーたちを採用し、仕事に没頭させ、やる気を起こさせるその能力である。

ジョブズ氏の性格の支配的な側面ばかりが注目されるが、そのせいで同氏の連携や協調の才能は気付かれにくくなっていた。未来のリーダーや革新者たちは支配的である以上にずっと協調的でなければならないと筆者は確信している。よりオープンでネットワーク化が進んだ時代の純然たる事実である。 

すべての答えを知らなければならないという気持ちを捨て、代わりに居心地が悪くなるほど自分と経歴が違う人たちとパートナーになったり協力したりする覚悟や準備はできているだろうか。

生まれつきの素晴らしい協力者でもパートナーでもなかったスティーブ・ジョブズ氏はこうしたことを数十回も繰り返してきた。同氏はつらい人生経験を経て初めて、自分の本当の才能を見出すことができたのである。